【よくある相談】認知症の母に書かせた遺言書は無効ではないのでしょうか。

【設例】

私には母と兄がおり,母と兄は実家で同居していました。先日母が亡くなったのですが,母は遺言書を残していました。裁判所で開封の手続きをしたのですが,中を見てその内容には驚きました。遺産の全てを兄に相続させると書かれていたのです。実家を兄が継ぐのはよいとしても,遺産全てを兄が継ぐというのは納得がいきません。母は生前重度の認知症であったため,兄が何もわからない母にそのような内容の遺言書を書かせたのだと思います。娘である私にも相続の権利があるはずです。兄だけに相続させるという遺言書の無効を主張することはできないのでしょうか。

 

【回答】

亡くなった方が遺言書を残していても,遺言の内容や遺言の作成過程に問題がある場合,遺言書の無効を主張することができます。

 

遺言の内容に問題があるといえるのは,①法律に違反する内容である場合か,②内容があやふやで複数の意味に解釈できてしまうような場合です。

 

設例の遺言書の内容は,遺産の全てを兄に相続させるというものであり,その内容は明確です。

 

したがって,設例の遺言書は,内容自体には問題がなく,その内容のみを理由として無効を主張することはできません。

 

次に,遺言書の作成過程に問題があるといえるのは,①法律で定められている遺言書の方式が守られていない場合,②遺言者が遺言書を作成したときに,遺言をするための能力がなかった場合,③②の能力があったとしても,遺言者が勘違いによって,または,詐欺や無理強いによって遺言書を作成した場合,という3つの場合です(詐欺や無理強いの場合は,正確には無効の主張ではなく,遺言を取消すということになります。)。

 

これらのどれかにあたれば,遺言書の無効を主張することができます。設例の場合,相談者の方のお母様は生前重度の認知症であったということから,②の問題となり得ます。

 

遺言をするための能力とは,年齢が15歳以上であることに加え,通常人としての正常な判断力・理解力・表現力を備え,遺言内容について十分な理解力を有していることをいいます。遺言の無効が争われる裁判では,認知症の症状の程度や遺言書の内容の複雑さ,そのような内容の遺言を作成する動機などを考慮して,遺言書を作成したときにその内容を理解することができたかどうかによって遺言をするための能力があるかを判断しているようです。

 

設例の場合ですと,遺言の内容自体は,一人だけに遺産を相続させるという単純なものですし,仮に同居のお兄様がお母様を介護していたというような事情があれば,お兄様だけに遺産を相続させようとする動機がないとは言えず,遺言をするための能力が認められやすい方向に働きます。

 

ただ,最も重要なのは,お母様が遺言を書いた当時の認知症がどの程度のものだったのかということです。遺言書を作成したときに具体的にどんな症状であったのかによって,無効とされるかどうかの結論が変わってきます。

 

もし,お母様が自分で何を書いているのかもわからない状態で,お兄様が言ったとおりに文章を書いたのだといえる事情があれば,遺言書の無効を主張できる可能性があります。裁判でこの点を争うことになれば,遺言書作成前後の医師の診断書やカルテ,要介護認定の有無やその程度,知能検査の結果,具体的な症状や言動,遺言書作成の経緯などによって,お母様は遺言内容を理解していなかったことを立証していくことになります。

 

しかし,そのような事情がないと判断された場合には,遺言をするための能力がなかったとはいえませんので,設例の遺言書の無効を主張することはできないでしょう。

 

なお,仮に遺言をするための能力が認められ,遺言書が有効と判断されたとしても,まったく遺産がもらえないということにはなりません。

 

民法には,遺留分減殺請求という制度があります(民法1028条以下)。これは,亡くなった方の子や親などの一定範囲の相続人は,遺言の記載内容にかかわらず,一定の割合の遺産の取得が保証されるという制度です。

 

相談者の方は亡くなったお母様の子であり,相続人はお兄様と2人ですので,この制度を利用して遺産の4分の1を取得することができます。ただし,この遺留分減殺請求は,自動的に適用されるわけではなく,この請求権を行使する意思を相手方に表示する必要があります。

 

この遺留分減殺請求権の行使は,相続があったことと遺言等の存在を知ってから1年(または相続開始から10年)を経過すると時効により消滅してしまうので,注意が必要です。

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