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遺言書を隠していた相続人に相続する資格はあるのか?
遺言書を隠していた相続人に相続する資格はあるのか?
【設例】
先日,父(90歳)が亡くなり,母(83歳)と兄(長男,62歳)と私(次男,61歳)が相続しました。
兄は家族とともに両親と同居し,父の営む農業の後継者として,父と経営に携わってきました。一方,私は,地方の実家を出て東京で家族と暮らしていました。
私は,仕事が忙しくなかなか実家に帰れなかったので,父の遺産分割のために久しぶりに帰省しました。父は,農業用地のほか,自宅の土地建物や,農業で蓄えた金融資産を多く保有していました。
私が,父は遺言書を作っていなかったのかと母と兄に聞くと,母によれば,父は,兄に農業用地と自宅の土地建物を相続させることにする遺言書を書いて兄に預けたことを覚えているというので,兄に遺言書があるかどうか尋ねました。しかし,兄は,一度遺言書の下書きのようなものを父から渡され,意見を聴かれたことはあるが,それはあくまでも下書きだったと思うし,どこにあるかわからないと答えました。
私は,腑に落ちなかったものの,だからといって実家中を隈なく探すわけにはいかなかったので,遺言書の捜索は諦めました。
そして,父の農業用地と自宅の土地建物は,兄が農業を継いで,母の面倒を義理の姉と看ていくことになるので兄が相続することにして,その他の金融資産は,母と兄と私で3分の1ずつ分けることにする遺産分割協議が整いました。
しかし,その数か月後,母から父の遺言書が兄の部屋から見つかったという連絡を受けました。遺言書の内容は,農業用地と自宅の土地建物を兄に相続させるとともに,その他の金融資産は,兄が2分の1を相続し,母と私が4分の1を相続するというものでした。
兄は,父の遺言書があるにもかかわらず,それが下書きだったと嘘をついたうえ,隠していたことになります。このような場合でも,兄は父の遺産を相続する資格があるのでしょうか。
【回答】
お父様が作成された遺言書の内容は,遺産分割協議よりもお兄様に有利な内容であり,お兄様が遺言書を隠していたとしても,相続に関して不当な利益を目的とするものではないといえることから,お兄様は相続欠格者には当たらず,相続する資格を失いません。
民法891条は,相続人の相続する資格を剥奪する相続欠格という制度を設け,その欠格事由を,以下のとおり5つ定めています。
1号:故意に被相続人又は先順位若しくは同順位にある相続人を死亡させ,又は死亡させようとしたために,刑に処せられた者
2号:被相続人が殺害されたことを知ったにもかかわらず,告発せず,又は告訴しなかった者(ただし,その者に是非弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときを除く。)
3号:詐欺又は強迫によって,被相続人が相続に関する遺言をしたり,撤回したり,取り消したり,又は変更することを妨げた者
4号:詐欺又は強迫によって,被相続人に相続に関する遺言をさせたり,撤回させたり,取り消させたり,又は変更させた者
5号:相続に関する被相続人の遺言書を偽造したり,変造したり,又は隠匿した者
相続欠格は,被相続人と相続人との間の家族の共同生活や,倫理的又は経済的なつながりを壊したことに対する,相続人を制裁するための制度であると考えられています。
設例では,お兄様が,お父様から遺言書を預っていたのではないかとお母様が認識されていましたが,遺産分割協議の際に,お兄様は,遺言書はないとご相談者様に伝えています。それにもかかわらず,その後ご実家のお兄様の部屋から遺言書が見つかっていますから,お兄様が遺言書を隠していた可能性は否定できません。そこで,お兄様が,民法891条5号に定める遺言書を隠匿した者に当たり,相続欠格者となるかどうかが問題となります。
しかし,遺言書の内容は,お兄様に農業用地と自宅の土地建物のほか,金融資産の2分の1を相続させるというものであり,遺産分割協議の内容よりも有利な内容となっていますから,相続人にとって有利な内容の遺言書を破棄した場合にも,同号の定める欠格事由に当たるのでしょうか。
つまり,隠匿行為をする認識のほかに,相続において有利になろうとするか,又は不利を免れようとする動機,目的があることが必要かどうかです。
裁判所は,相続欠格が,遺言に関して著しく不当な干渉行為をした相続人に対して制裁を加えるための制度であり,遺言書の隠匿行為が不当な利益を目的とするものでなかったときは,隠匿行為をした相続人は相続欠格者とはならないと判断しています(最高裁平成9年1月28日判決)。
設例では,お兄様は,遺産分割協議の際に遺言書をお母様とご相談者様に見せて,お父様の遺言どおりの相続手続をすることができたにもかかわらず,遺言の内容よりも不利な内容で遺産分割協議を行っています(遺言書では,お兄様は金融資産について2分の1を相続することになっているのに対し,遺産分割協議では,その3分の1のみを相続することにしています。)
ですから,お兄様が遺言書を隠していたとしても,その隠匿行為が不当な利益を目的とするものであるとはいえませんので,お兄様は,相続欠格者にはならないものと考えられます。
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