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不倫相手に遺産を遺す遺言は有効か?
不倫相手に遺産を遺す遺言は有効か?
【設例】
3か月前に夫(71歳)が亡くなったため,妻である私(68歳)と,息子(40歳)が夫の遺産を相続しました。
夫と私は,10年前から性格の不一致により別居状態にあり,私たちは,別居中は交流がほとんどなく,夫婦としての実体は失われていました。
そのような中で,別居から3年ほど経った頃から,夫には同棲相手A(65歳)がいることがわかりましたが,私は夫には何の未練もなかったので,夫の不倫にはまったく興味がありませんでした。
しかし,夫が亡くなり,私が相続手続を行っていたところ,Aから通知が届きました。その内容は,夫が遺言書を遺しており,私,息子,Aに全遺産の3分の1ずつを遺贈すると記載されていることから,この遺言書に基づいて遺産分割を行うことを求めるものでした。
たしかに,私と夫との夫婦関係は破綻していましたし,私は夫とAとの不倫には関心がありませんでした。しかし,夫と私は離婚していたわけではありませんから,私たち相続人が相続すべき遺産の一部を,不倫相手に遺す遺言は,無効なのではないでしょうか。
【回答】
ご主人様が遺した遺言が,Aとの不倫関係を維持し,継続することを目的としたものではなく,専ら生計をご主人様に頼っていたAの生活を保全するためにされたものであり,また,この遺言の内容がご相談者様や息子様の生活の基盤を脅かすものとはいえないのであれば,有効となる可能性が高いものと考えられます。
不倫は,相手の配偶者の権利を侵害する不法行為(民法第709条)となる違法な行為です。
そうすると,将来相続人が相続することが予定されている財産について,不倫相手に遺贈(遺言で相続人や第三者に対し遺産を譲与することをいいます。)することは,不倫が違法な行為である以上,社会的に認められるべきではないものとして,無効になるようにも思われます(民法第90条)。
しかし,裁判所は,不倫相手に遺贈する遺言のすべてを無効としてはおらず,遺言が,不倫関係の維持継続を目的とするものではなく,専ら不倫相手の生活を保全するためにされたものであり,また,遺言の内容が相続人の生活の基盤を脅かすものとはいえない場合には,その遺言が民法第90条に違反して無効であるとはいえないと判断しました(最高裁昭和61年11月20日判決)。
この判決の事案では,(1)不倫関係が約7年間継続していたこと,(2)不倫関係が早い段階から被相続人の家族にとって公然の事実となっており,また被相続人とその配偶者の夫婦としての実体はある程度喪失していたこと,(3)遺言書が,被相続人の死亡する約1年2か月前に作成され,その作成前後において,被相続人と不倫相手の関係に変化はなかったこと,及び(4)不倫相手,配偶者,子に対して,全遺産の3分の1ずつを遺贈するという遺言は,遺言当時の民法上の配偶者の法定相続分が3分の1であり,また子は既に結婚して高校の講師として勤務しているという事実関係を前提に,不倫相手が専ら生計を被相続人に頼っており,遺言はその生活を保全するためにされたものとして,上記の結論が導かれました。
本件では,ご主人様がAに対して遺産の3分の1を遺そうとした理由が明らかではありませんが,Aがその生計をご主人様に頼っていたため,Aの生活を保全するためにAに遺贈しようとしたのであれば,ご主人様の遺言は有効となる可能性が高くなります。
また,全遺産の3分の1をAに遺贈することが,ご相談者様と息子様の生活の基盤を脅かすものではないかも問題になりますが,ご相談者様にとって,遺産の3分の1を受け取るだけでは生活していけないとか,息子様が経済的に独立していないなどの事情がない限りは,遺言内容が生活の基盤を脅かすものであるとはいえず,有効となる可能性が高いといえます。
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