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ネコに財産を遺したいという遺言書の有効性
ネコに財産を遺したいという遺言書の有効性
高齢者の方でもペットを飼っている方はたくさんいらっしゃいます。特に一人暮らしの方ですと,毎日共に過ごしてきたペットへの愛情もひときわでしょう。
ただ,一人暮らしの方ですと,もし自分の身に何かあった場合に,その後のペットの世話に不安に思われるのではないでしょうか。そのため,ペットに自分の財産を遺したいと考える方もいらっしゃいます。
では,例えばネコに自分の財産を遺したい場合,ネコに財産を承継させる旨の遺言書を作成するなどして,その意思を実現することはできるのでしょうか。
まず,民法上財産を承継できるのは,権利能力のある者,つまり,権利義務の主体となる者に限られます。権利義務の主体となれるのは人だけですので,動物であるネコは財産を所有することはできず,ネコに直接財産を承継させることはできません。そのため,直接ネコに財産を承継させるという内容の遺言書は無効となります。
しかし,飼い主の方の希望は,自分の死後もペットのネコが生きていくことができるようにしたいということです。ですから,ネコを世話してくれる人がいて,自分の財産をネコのために使ってくれれば,飼い主の方の希望に沿うことになります。
その方法としては,
①ネコの面倒を見ることを条件として第三者に財産を贈与する方法 と,
②ネコのために使う財産をその他の財産と切り離して,第三者にその財産を預け,ネコのためだけに使ってもらう方法
があります。
①の第三者にネコの面倒を見ることを条件として財産を贈与する方法としては,負担付遺贈(民法第1002条)という方法と,負担付死因贈与(民法第553条,第554条)という方法があります。
負担付遺贈は,ネコの面倒を見る代わりに第三者に財産を遺贈(死亡したときに財産を承継させること)するものです。ただ,受遺者(遺贈によって財産を受取る者)がしっかりネコの面倒を見て,承継した財産をネコのために使ってくれればよいですが,ろくにネコの面倒を見ずに財産だけ自分のために使ってしまうおそれもあります。飼い主の方は亡くなってしまっているので,受遺者がしっかりネコの面倒を見てくれているのか,財産だけ使ってしまっていないかを直接監視することはできません。しかし,相続人がいるのであれば,受遺者が負担を履行しない場合,相続人は相当期間を定めて負担の履行の催告をすることができます。そして,受遺者が相当期間内に負担の履行をしない場合は,相続人は家庭裁判所に負担付遺贈の取消しを請求することができます(民法第1027条)。また,被相続人が遺言により遺言執行者という者を指定し,又は,第三者に遺言執行者の指定を委託し,委託された第三者が遺言執行者を指定した場合は,遺言執行者は受遺者に対して負担の履行を求めることもできます(なお,遺言執行者は相続人や受遺者等の利害関係人の請求によって家庭裁判所に選任されることもあります。)。そのため,相続人において受遺者を監視して履行の催告や取消しの請求をすることが期待できない場合は,専門家等を遺言執行者として選任しておけば履行の催告により受遺者に負担の履行を促すことができます。
ただし,遺贈者は,受遺者の同意を得ずに負担付遺贈を行うことができるため,受遺者はその負担付遺贈を受け入れないこともできます(これを「遺贈の放棄」といいます。民法第986条第1項)。
一方,負担付死因贈与は,飼い主の方が亡くなったときに,ネコの面倒を見る代わりに第三者に財産を贈与するものです。贈与は遺贈と異なり,両者の合意が必要な契約ですので,受贈者(贈与をうける者)が,やっぱりやめた,と一方的に契約を破棄することはできません。
しかし,贈与者である飼い主の方は亡くなってしまっているので,負担付遺贈の場合と同様,受贈者がネコの面倒をみてくれているのか直接監視することはできません。しかし,相続人がいるのであれば,受贈者が負担を履行しない場合,相続人において負担付死因贈与を解除することが可能な場合があると考えられます。
また,②財産を切り離してネコのためだけに使ってもらう方法としては,民事信託という方法があります。民事信託とは,自分の財産を信頼できる人に預けて,その方に,預ける目的に従って管理してもらうことです。すなわち,飼い主の方からネコの面倒を見てくれる者に対し,ネコの面倒を見るために使うことを目的として財産を預けます。この場合の財産を預けた飼い主の方を委託者,財産を預かる者を受託者といいます。受託者は自らネコの面倒を見ることに限らず,ネコの面倒を見てくれる別の施設や団体にネコの面倒を任せ,受託者自身は施設等の選定,監督及び利用料等の支払等をすることも可能です。そして,受託者は財産を預かりますが,ネコのために財産を使うことしかできません。民事信託では「受益者」という,信託により利益を受ける者も設ける必要がありますが,上述したようにネコは権利能力が無いためネコ自身を受益者にすることはできません。そのため,飼い主の方の生存中は,飼い主の方ご自身が受益者となることが考えられます。
その後,飼い主の方が亡くなった場合は相続人の方を次の受益者とし,ネコが亡くなった場合には信託が終了して,残りの財産を受益者が受取るようにするとういう方法が考えられます。
相続人の方がいない場合は,飼い主の方の生前はご自身が受益者となり,自身が亡くなった場合は,信頼できる知人,友人や団体を受益者とすることが考えられます。この場合でも,ネコが亡くなった場合には信託が終了して,残りの財産を受益者が受け取るようにすることになりますので,残りの財産を承継させてもよいと思えるような方を受益者に選ぶべきです。ただし,受託者の方が受益者も兼ねる状態が1年間継続すると信託が終了してしまいます(信託法第163条第2号)ので,受託者の方を次の受益者とすることは避けたほうがよいでしょう。
ペットのネコ等に財産を遺す場合,上記のような方法が考えられますが,どの方法をとるにしろ,ペットの面倒を見てくれる第三者を見つけ,その信頼性を見極めることが重要です。また,各方法はそれぞれにメリットとデメリットがあるため,ペットのネコ等に財産を遺したい場合は,自分の希望に沿った方法について相続対策や民事信託に詳しい弁護士に相談したほうがよいでしょう。
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