【よくある相談】遺言で触れられていない遺産がある場合

【設例】

先月,夫を約40年前に亡くし,一人暮らしをしていた母(88歳)が亡くなりました。

 

娘である私(60歳)は,母が暮らす実家の近くで家庭を持ちながら,母の日常生活の世話(家事,金銭管理など)や,私の家族との食事,旅行などの交流を通じて,母が幸せに暮らせるようにその自立した生活を支えてきました。母の葬儀や,遺品整理なども,私がすべて執り行いました。

 

母の遺品を整理していたところ,母が書いた遺言書が見つかりました。私は,母が遺言書を書いていたことは知らず,とても驚きました。遺言書には,実家の土地と建物を,私に与えるとだけ書いてありました。

 

私には,兄(63歳)がいます。兄は,学生の頃から家を出て,大学中退後は芸術関係の仕事で常に忙しく,実家に帰ってくることはほとんどありませんでした。この度,母の葬式で兄に久しぶりに会いましたが,あまり仕事がうまくいっていないようで,母の遺産をどのように分けるのかという話をされました。遺言書が見つかったことは話さなければならないと思いますが,実家の土地建物以外に,母の遺産には預貯金が1000万円ほどあります。

 

率直な気持ちとして,母の面倒を一切看てこなかったばかりか,母に会いに帰ってくることさえほとんどなかった兄に,母の遺産を受け取る資格はないと思っています。

 

ただ,母の遺言書には,預貯金1000万円について何も触れられていないので,兄との遺産分割をどのように進めれば良いのでしょうか。

 

 

【回答】

お母様は,ご相談者様に対して,ご実家の土地と建物を遺贈(遺言によって,遺産を無償で相続人等に譲与することをいいます。)していますから,お兄様の遺留分を侵害しない限り,ご相談者様は,ご実家の土地と建物を単独で取得することになります。

 

そして,預貯金1000万円については,ご相談者様とお兄様とのお話し合い,つまり遺産分割協議によって,その分け方を決めることになります。その際,ご相談者様は,遺産のうち既にご実家の土地と建物の遺贈を受けていますから,原則として,これを遺産分割に当たって遺産に含めて計算する,持戻し計算と呼ばれる計算方法によって計算しなければならず,ご相談者様が相続できる預貯金は,法定相続分(500万円)よりも少なくなってしまうか,あるいはご実家の土地と建物の評価額によっては,まったく相続できない可能性があります。

 

ただし,お母様が,持戻し計算を行わないでほしいという意思を示していた(持戻し免除の意思表示といいます。)と考えられる場合には,ご相談者様は,法定相続分どおり,500万円を相続する権利があります。ただし,この場合でも以下のとおりお兄様の遺留分を侵害することはできません。

 

ご相談のケースでは,お母様の遺贈によって,原則として,ご相談者様がご実家の土地と建物を単独で取得します。

 

ただし,本件では相続人がご相談者様とお兄様の2人であることから,お兄様には,遺留分(一定の相続人に認められる最低限の遺産を受け取る権利)が遺産の4分の1まで認められます。ですから,たとえば,ご実家の土地と建物の評価額が5000万円であった場合,遺産の総額は,預貯金の1000万円を加え6000万円となるため,お兄様に認められる遺留分は,その4分の1である1500万円となります。

 

そうるすと,預貯金1000万円をお兄様が相続したとしても,なお,お兄様は500万円分について,遺留分を確保できていないということになります。この点について,お兄様が納得されず,またご相談者様がご自身の財産から500万円分をお兄様にお支払いできない場合には,お兄様としてはご実家の土地と建物のうち,500万円分を共有持分とするように請求してくる可能性があります。

 

これに対し,ご実家の土地と建物の評価額が1000万円の場合(この場合,お兄様の遺留分額は500万円です。)には,持戻し計算により,お兄様が預貯金1000万円を相続することになります。

 

つまり,持戻し計算は,以下のように計算されます。

まず,相続人の一部に対する遺贈や生前贈与の価額を遺産の価額に加えて,その合計額を出します(これを,みなし相続財産といいます。)。

 

つぎに,みなし相続財産の価額に,共同相続人それぞれの法定相続分を乗じて,それぞれの一応の相続分の価額を出し,この価額から,遺贈又は生前贈与の価額を控除します。そして,この結果出されるそれぞれの価額を基に,具体的相続分率を割り出します。

 

最後に,遺産の価額に具体的相続分率を乗じて,それぞれの具体的相続分を出します。

そして,ご実家の土地と建物の評価額が1000万円の場合の持戻し計算の方法は,以下のとおりです。

 

お母様は,ご相談者様に1000万円を遺贈していますから,みなし相続財産は,預貯金1000万円+不動産1000万円=2000万円となります。

 

このみなし相続財産2000万円を,法定相続分に従いそれぞれの相続分を計算すると,

 

ご相談者様:2000万円×1/2-1000万円=0

お兄様  :2000万円×1/2=1000万円

 

となります。

 

そして,この一応の相続分からそれぞれの具体的相続分率を割り出すと,

 

ご相談者様:一応の相続分が0円なので,具体的相続分率は0です。

お兄様  :2000万円÷(1000万円+0円)=2

 

となり,ご相談者様とお兄様の具体的相続分率は,0:2となりますから,お兄様が預貯金1000万円のすべてを相続することになります。

 

そうすると,この場合のお兄様の遺留分額は500万円ですから,お兄様は預貯金1000万円を相続することになるため,お母様のご相談者様に対する遺贈は,お兄様の遺留分を侵害していないことになります。

 

よって,この場合には,お兄様から遺留分減殺請求権を行使されて,ご実家の土地と建物の共有持分を,お兄様に渡すことにはなりません。

 

ただ,実家は確保できても,預貯金が全部お兄様にもっていかれるのでは納得がいかないかもしれません。お母様の遺志としては,実家はすべてご相談者様に与え,その他の財産は半分ずつ分けてくれというものであったとも考えられるからです。

 

法的にいうと,一方で,お母様が持戻し免除の意思表示をしていたといえるのであれば,上記のご相談者様の主張がとおり,預貯金1000万円は法定相続分どおり,それぞれ500万円ずつ相続されることになります。

 

しかし,遺贈の場合,持戻し免除の意思表示は,遺言によって示されるなど,明確に示されなければならないと考え方が主流であり,ご相談者様の主張は認められない可能性もあります。

 

 

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